本屋大賞はとってない

本屋大賞はとっていません

親にでも書ける読書感想文(芥川龍之介編その4)

「四谷でーすか」です。

引き続き『トロッコ』。

ここからが起承転結の「承」です。

 

そののち十日余りたってから、良平は又たった一人、ひる過ぎの工事場に佇みながら、トロッコの来るのを眺めていた。すると土を積んだトロッコほかに、枕木まくらぎを積んだトロッコが一りょう、これは本線になるはずの、太い線路を登って来た。このトロッコを押しているのは、二人とも若い男だった。良平は彼等を見た時から、何だか親しみやすいような気がした。「この人たちならばしかられない」――彼はそう思いながら、トロッコそばけて行った。
「おじさん。押してやろうか?」
 その中の一人、――しまのシャツを着ている男は、俯向うつむきにトロッコを押したまま、思った通り快い返事をした。
「おお、押してくよう」
 良平は二人の間にはいると、力一杯押し始めた。
「われは中中なかなか力があるな」
 の一人、――耳に巻煙草まきたばこはさんだ男も、こう良平をめてくれた。
 その内に線路の勾配は、だんだん楽になり始めた。「もう押さなくともい」――良平は今にも云われるかと内心気がかりでならなかった。が、若い二人の土工は、前よりも腰を起したぎり、黙黙と車を押し続けていた。良平はとうとうこらえ切れずに、ずこんな事を尋ねて見た。
何時いつまでも押していてい?」
「好いとも」
 二人は同時に返事をした。良平は「優しい人たちだ」と思った。

 

皆さんは前回の講義で、「三位一体」と「十字架」→「キリスト」=「古い印袢天しるしばんてんに、季節外れの麦藁帽むぎわらぼうをかぶった、背の高い土工」という芥川の語呂合わせについて勉強しましたよね。

いま思えば、良平は「背の高い土工=キリスト」に叱られるという物凄い体験をしたわけです。

よく生きていられたものです。

そういえば、キリストは大工の息子でしたね。

芥川恐るべしです。

では、ここで登場する「この人たち」「優しい人たち」とは誰か?

おわかりですよね。

悪魔です。

良平は悪魔に誘惑されたのです。

しかし、読書感想文に「誘惑」などという不健全な言葉を用いるべきではありません。

ですから、こんな風に書いてみたらいかがでしょうか?

 僕は良平が二人の若い男に叱られなければいいなと思います。

なお、蛇足になりますが、二人の若い男=二人の悪魔は不気味なくらいに没個性的です。

徹頭徹尾、二人で一組。

優しそうだけど、個々の人間味が感じられません。

叱るキリストと表情のない悪魔。

『トロッコ』の物語はこの緊張関係の中で進んでいきます。

そうして子供は、この緊張関係(なんとなく嫌な感じ)に不思議なくらい敏感です。

だから、次のように書いてもよいかもしれません。

僕は良平が二人の若い男に叱られなければいいなと思いますが、なんとなく嫌な予感がします。

まとめましょう。

子供特有のナイーブさをアピールしていない読書感想文は大人が書いた読書感想文のようなものだ。

では、今日はここまでにします。