本屋大賞はとってない

本屋大賞はとっていません

親にでも書ける読書感想文(芥川龍之介編その3)

「四谷でーすか」です。

引き続き『トロッコ』の感想文にチャレンジしてみましょう。

 

或(ある)夕方、――それは二月の初旬だった。良平は二つ下の弟や、弟と同じ年の隣の子供と、トロッコの置いてある村外れへ行った。トロッコは泥だらけになったまま、薄明るい中に並んでいる。が、そのほか何処どこを見ても、土工たちの姿は見えなかった。三人の子供は恐る恐る、一番はしにあるトロッコを押した。トロッコは三人の力がそろうと、突然ごろりと車輪をまわした。良平はこの音にひやりとした。しかし二度目の車輪の音は、もう彼を驚かさなかった。ごろり、ごろり、――トロッコはそう云う音と共に、三人の手に押されながら、そろそろ線路を登って行った。
 その内にかれこれ十けん程来ると、線路の勾配こうばいが急になり出した。トロッコも三人の力では、いくら押しても動かなくなった。どうかすれば車と一しょに、押し戻されそうにもなる事がある。良平はもういと思ったから、年下の二人に合図をした。
「さあ、乗ろう!」

 

いかがでしょうか?

この部分、妙に数字が多く含まれていることが気になりませんか?

数字を赤で表示してみます。

 

或(ある)夕方、――それは月の初旬だった。良平はつ下の弟や、弟と同じ年の隣の子供と、トロッコの置いてある村外れへ行った。トロッコは泥だらけになったまま、薄明るい中に並んでいる。が、そのほか何処どこを見ても、土工たちの姿は見えなかった。人の子供は恐る恐る、はしにあるトロッコを押した。トロッコ人の力がそろうと、突然ごろりと車輪をまわした。良平はこの音にひやりとした。しかし度目の車輪の音は、もう彼を驚かさなかった。ごろり、ごろり、――トロッコはそう云う音と共に、人の手に押されながら、そろそろ線路を登って行った。
 その内にかれこれけん程来ると、線路の勾配こうばいが急になり出した。トロッコ人の力では、いくら押しても動かなくなった。どうかすれば車としょに、押し戻されそうにもなる事がある。良平はもういと思ったから、年下の人に合図をした。
「さあ、乗ろう!」

 

数えてみましょう。

「一」が2回、「二」が4回、「三」が4回、「十」が1回です。

「一」「二」「三」ときて「十」は邪魔ですね。

でも、これは「三位一体」と「十字架」を現わしているのでしょう。

知性の人、芥川龍之介の本領発揮といったところでしょうか。

そうして、次の文書が続きます。

 

 彼等は度に手をはなすと、トロッコの上へ飛び乗った。トロッコは最初おもむろに、それから見る見るいきおいよく、息に線路をくだり出した。その途端につき当りの風景は、たちまち両側へ分かれるように、ずんずん目の前へ展開して来る。顔に当る薄暮はくぼの風、足の下におどるトロッコの動揺、――良平はほとん有頂天うちょうてんになった。
 しかしトロッコ二三分ののち、もうもとの終点に止まっていた。
「さあ、もう一度押すじゃあ」
 良平は年下の人としょに、又トロッコを押し上げにかかった。が、まだ車輪も動かない内に、突然彼等のうしろには、誰かの足音が聞え出した。のみならずそれは聞え出したと思うと、急にこう云う怒鳴り声に変った。
「この野郎! 誰にことわってトロにさわった?」
 其処には古い印袢天しるしばんてんに、季節外れの麦藁帽むぎわらぼうをかぶった、背の高い土工が佇んでいる。――そう云う姿が目にはいった時、良平は年下の人としょに、もう五六間逃げ出していた。――それぎり良平は使の帰りに、人気のない工事場のトロッコを見ても、度と乗って見ようと思った事はない。唯その時の土工の姿は、今でも良平の頭の何処かに、はっきりした記憶を残している。薄明りの中にほのめいた、小さい黄色の麦藁帽、――しかしその記憶さえも、年毎としごとに色彩は薄れるらしい。

 

ここでも、数字が頻出します。

特筆すべきは「五」と「六」の登場でしょう。

私はここから、「僕はここで語呂合わせ(五六合わせ)をやってるんだよ」という芥川からのメッセージを読み取ります。

では、芥川はいかなる語呂合わせを行っているのか?

子供でもわかることです。

「三位一体」と「十字架」→「キリスト」=「古い印袢天しるしばんてんに、季節外れの麦藁帽むぎわらぼうをかぶった、背の高い土工」という語呂合わせです。

つまり、背の高い土工はキリストなんです。

だから、「その時の土工の姿は、今でも良平の頭の何処かに、はっきりした記憶を残している。薄明りの中にほのめいた、小さい黄色の麦藁帽」という神秘的な文章が唐突に現れるわけです。

薄明りの中に仄めいたキリスト。。

「しかしその記憶さえも、年毎としごとに色彩は薄れるらしい。」

信仰の喪失。。

なお、「しかしその記憶さえも、年毎としごとに色彩は薄れるらしい」という文章において、書き手と物語の間に横たわる『時間』がさりげなく揺らいでいることに注目しておいてくださいね。

このことは後程、非常に重要な意味をもつことになります。

というわけで、今回は少し小難しい話になってしまいました。

もちろん、読書感想文は小難しくなってはいけません。

ですから、こんな風に書いてみたらいかがでしょうか?

 

読んでいて、僕もトロッコにのってみたくなりました。