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本屋大賞はとってない

本屋大賞はとっていません

新白樺派

以下は新白樺派の代表的作家、吉野政直の『美しい高原』の冒頭である。

 

私は右手にバックを持って、軽井沢駅に降り立った。

思ったより寒くはなくて、季節の割には寒くはないなと思った。

タクシーに乗って高野の別荘に向かったが、途中で土産を持ってこなかったことに気づき、地団駄を踏んだ。

高野の細君は相変わらず美しかったが、高嶺の花だった。

高野自身は大した男ではなかったが、高野の妻というだけで、高嶺の花といわざるを得ないことが歯痒かった。

とはいえ私は、自分が高嶺の花という言葉を間違って用いているような気もするのだった。

夕食はカレーだった。

カツレツはのっていなかったが美味だった。

食後、私が四畳半の客間に案内されて荷解きをしていると、高野の細君がやってきた。

私は慌てて雑誌をしまった。

朝になるとあちらに浅間山が見えますわよ、と指差す彼女を見ていて、朝になったらどうなることやら、などと吹き出したくなり、堪えるのが難儀だった。