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本屋大賞はとってない

本屋大賞はとっていません

グレアム・グレーンに申し訳ない

 

側溝の脇を通ったのは2回目である。

蛾が張りついていたので目を背けた。

一人の男の死がこれほどまでに頑迷であるとは不思議だと思いながら、彼は土くれを蹴った。

あの男が告白しなかった罪を彼は軽蔑しなかった。

むしろそうあるべきだと思った。

女のところに行かねばならないと思うと気が頑迷だった

手荒なことをしなくてすむことを彼は祈った。

こちらの質問に答えてくれさえすればよいのだ。

こちらの期待どおりの答えをしてくれればよいのだ。

女はそれを知っているはずだった。

警察が先回りしている可能性は否定できなかったが、側溝の先にいるとは思えなかった。

子供たちが缶けりして遊んでいた。

頑迷の情が彼を襲った。

なぜこのようなことになったのか、彼は事情をよく知っていたが、その事情を形作ったものの所在については、たった一人の人間で理解できるとは思えなかった。

それゆえにあの男は死を選んだのだ。

少女がなんどやっても空振りするので泣き出した。

この少女とは全く逆の理由で女は涙を流すかもしれない。

彼は周囲を見渡してから、そっとナイフを側溝に落とした。

犯行の許しを得るためのある種の頑迷な儀式のように。

その一方で、彼はこの行為によって、自分の罪がより重くなることも理解していた。

組織に彼の居場所はなかった。

頑迷だった。

女のところに行くのが無意味であることはわかっていた。

しかし、彼のまわりで犯されたあらゆる罪を、たった一人の女から聞きだすという試みにはある種の頑迷な誘惑があった。

彼は酒に酔っていた。

教会が見えた。

あなた達が知りえないことを私はこれから知ろうとしています。

そう懺悔してみたい誘惑にかられた。

酒に酔っていなければ生じないであろう感情だ。

酔っていなければ、この想いは詩になっていたかもしれない。

遠くで汽船の頑迷な音が聞こえた。

教会は右斜め後方に離れていく。

教会が見えなくなる前に、彼は自分が誰かに捉えられたいと思った。