読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

本屋大賞はとってない

本屋大賞はとっていません

平成の文豪シリーズ1

平成の文豪シリーズ1
夏目悠斗作『坂の本屋』

私が神楽坂で佐吉と会ったのは確か先週のことである。
「ああ佐吉か、こんなところでなにをしているのだ」と聞いたところ、「特になにも」と答えるので不審に思い、「そうだ、あの件はどうなった」と問いただしてみると、「安心して下さい」とのことだったので安堵した。
安堵するとつい酒が飲みたくなって、行きつけの店に一寸寄ってみた。店には誰もいなかったので仕方なく自分で燗をつけていたところ、多恵子が帰ってきて、「あら、先生にそんなことをさせたら、加藤さんになんて言われるかわかりゃしませんわ」などとかわいいことをいう。
「そういえば加藤はどうなった」と聞くと、「算段もつきはしません」と答えるので、「入用なのか」と聞いたところ、「入用ではないようです」といわれて安堵した。
上等の穴子が入ったというので巻いてくれと頼み、それを待ちながら酒を飲んでいると電話が鳴った。多恵子が私を呼ぶので替わると村田だった。女のことなら面倒だなと思ったが、「借りていたマクベスが見つかったので明日返す」とのことだったので安堵した。
穴子はさほど旨くなかった。
ふと気になったことがあり、多恵子に「本当に加藤は大丈夫か」と念押ししたところ、大丈夫だというので安堵した。
帰りの下り坂、今年の干支がふと気になり、近くにあった本屋で調べてみたところ、予想していたものとは違っていたので、誰かに聞かれる前に調べておいてよかったと安堵した。
しかし、家に帰ってから、坂の途中の本屋だったのに、なぜ本棚がまっすぐだったのだろうと不安になり、明日にでも店主に聞いてみようと思って床についたのだった。